新米シングルパパが思うこと。

私は美容室にいる時間が好きだ。生きている中で自分だけの幸せな時間に浸ることのできる時間だ。スマホをいじりながら、イケメン美容師さんとのふんわりしたトークタイム。楽しくてたまらない大切な時間だ。
そして何気に大切だと思っているのは、ひたすら雑誌を読むこと。男性誌から女性誌、趣味・娯楽系の雑誌まで美容室って幅広く取り揃えているので、雑誌を読むには一番いい場所だと思っている。雑誌を眺めることは、自分の生活を豊かにするため(主に旬な情報をゲットするため。)の他、職場の同僚、あるいは大学の学生さん、さらには保育園に通う息子達の友達のママたちとの話題作りのヒントにもなったりする。


ところで、雑誌にもよく載っており、今や政府も大々的にキャンペーンを打っている言葉がある。イクメンって言葉。雑誌などの特集記事を見ている分には、幸せそうでいいな〜と思う。でも、女性誌などで見る幸せそうなイクメンたちには妻がいらっしゃる。当然とはいえ、何とも言えないもどかしさ、違和感を覚えずにはいられないという思いをイクメンという言葉に抱いていた。
念のために付け加えると、自分がシングルパパだからそんな感情を持ったわけではない。疑問を持ったのは人ではない、言葉だ。イクメンという言葉には、何かしらの前提条件があり、その条件がイクメンという言葉によって隠されてしまう危険性がある、そう感じ取ったからだ。


イクメン(あるいはイケダンと言い換えてもいいかもしれない。)なるための前提条件、つまり資格、それは何だろうか。雑誌で見るイクメンの方々は皆さん、家事の一部を完璧にかつ妻の期待値を上回ってこなしていく。何度「我が家にも来てくれないかな」と思ったことか。本当に見ていて素晴らしいなと。ただ、雑誌の特性上なのかもしれませんが、余りにも完璧な場面や幸せ満点パパが並ぶ記事ばかり。それを見せつけられると、生活感に欠けるとも思ってしまう。
家事育児は協力してやっていくものだ。その協力の仕方にいろいろあることは、百も承知だ。そもそも、イクメンという言葉に込められた含意は何だろうか。厚生労働省の委託事業である「イクメンプロジェクト」のホームページには、イクメンとは「子育てを楽しみ、自分自身も成長する男性」とあった。実に前向きでキャッチーな言葉だ。家事も育児も、そんなに前向きにアクセルを踏み続けられることではないのではないか、そんな思いをある。


私は大学生時代に妻と結婚し、世間的には子だくさんパパといわれる部類に入るくらい、元気な男の子ばかりが我が家にはいる。家が家族の人数に比して小さいので、人口密度が高く、だれかが風邪を引けばたちまち集団感染になってしまう。ご飯の量も洗濯の量もハンパない。子どもが増えるにつけ、家事や育児のボリュームは増す一方。これは夫婦だけではとてもしんどいくらいのボリュームだった。
妻はフランス人で実家の援助は日本にいる限りは、そう簡単には得られない。また私は施設と里子で育ったため、そして実父と実母は他界したため、親の協力を得ることができない。家族で身近に頼りになるのは、妻の弟たちと、私の弟だった。職場の同僚に聞くと、やはり近所に実家があると本当に頼りになるらしい。とはいえ、いろいろやることあって大変だけど、海外での出産・子育て経験も経て、私たち夫婦は「子育て楽しいね!!」をまさに日々実感していた。


しかし事態は暗転。突然愛妻の命を奪われることになってしまった。それが2010年6月。しばらくは何にも手につかない、というか抜け殻みたいな状態。息子たちの将来なんて考える余裕ない、それよりもこれから生活どうなるんだろう、いっそのこと自分も死んだほうが、子どもにとっても良いのではという考えがよぎったり。その当時は、父子家庭になったという実感なかった。
夫婦2人でやってもけっこうなボリュームだった家事育児。それが自分に一気にのしかかった。プレッシャーという言葉が適切かどうかはわからないけど、それは、それは重圧。児童相談所も保健所も児童養護施設乳児院の活用を勧めてきた。施設や里親の下で暮らすことのしんどさを、身をもって体験している自分がまさか親の立場で向き合うことになろうとは思いもしなかったし、むしろ記憶の脇においてそっとしておいてほしい部分でもあった。
そんな時、支えてくれたのは妻の実家の義父母、弟たちだった。私の今までの生きざまも知っていた。できることなら、親になる機会を奪ってほしくない、そんな思いだったらしい。また、私の里親もいろいろと支えてくれた。子どもに関する様々な手続き、申請等を遠方から必死に情報収集し、私にそっと教えてくれたりもした。


この2年のシングルパパ生活で感じていること。それは、完璧に子育てしようとしないこと、頑張りすぎないこと、かっこつけないこと、の3つだ。
たまには外食に頼ることも、弁当に頼ることもある。料理は結構好きだし、何より誰かのために料理を作るときは、とても楽しいので苦にしないけど、さすがに仕事に疲れて、ごはんを作るの面倒だ!!と思うことは度々ある。洗濯もしてはいけないものを洗濯してしまったりする。おかげで洗濯機に嫌われているのではないかと思うくらい洗濯機がよく壊れる。保育園の連絡帳書きも、書くの忘れてたりすることも多いし…。園長先生ごめんなさい。
言い訳がましく聞こえるかもしれないけれど、失敗も含めて子育てだし家事だと思う。そういう意味では、家事育児の様々な場面で夫婦の価値観ややり方の違いが表出する。妻が妻の言うとおりにできて夫はイクメンというのは、お互いにとってストレスたまることになるだろう。パパだろうがママだろうが失敗することもある。完璧にこなす必要も、毎日前向きにやらなければならないという必要もない。


逆に言えば、夫が家事育児の全体のボリューム感をいかに把握しているかというのが、とても大事。そうでなければ真に夫婦協力し合って子育てとは言えない。どちらかに負担が実はのしかかっていて、一方は家事育児のつまみ食いをしているだけとなる。そんな状況で、「私、イクメンです!!」なんて言われても何の説得力もない。



最後にちょっとだけグチとお願いしたいことを綴っておこう。男性がごく自然に育児や家事をできるようにするには、やはり職場の空気や協力が欠かせない。私は仕事を2つ掛け持ちしているが、両者では全くその空気感が違い、「あーだからイクメンが必要とされているのか」と思うこともしばしば。そりゃね、「朝、郵便受けに新聞取りに行くのが立派な家事だし、それしかしたことがない」と堂々と言われてしまっては休みは取りづらい。こっちとしては、やっぱ仕事はフルタイムでやらな、そして無駄に長い会議に出席したり、業務分担でも積極的に立候補したりしないといろいろ言われるんやろうなと。

家事・子育て・介護にフレンドリーな会社、団体、学校を一刻も早く作ってほしい。じゃないと「家庭内格差」はなくならないし、男性が家事・育児を自然にできる時代はまだ先になってしまう。