施設養護における自分らしさ

昨日は、友人と新宿でお食事・飲み会。8人でプチ男子会みたいな感じで楽しかった。みんな自立支援施設に入所経験がある。加えて、みんな自立援助ホーム、里親、養護施設、それに少年院など様々な施設や制度の下で子ども期を終え、大人になっている。なかなかコアすぎるメンバーだけれども、やっぱり落ち着く。落ち着きすぎて、楽しすぎて、飲み過ぎて、騒ぎ過ぎた。(ごめん、息子たち。)

児童自立支援施設はどうあるべきか。研究者としての原点ともいえる問いだ。その問い、2つ具体的に書くとするなら、1つは、子ども期を豊かに暮らすことができるようにするために、児童自立支援施設が果たすべき真の役割や実践は何か。もう1つは、入所する若者がいずれ迎える「旅立ち」とその後の旅路をどう見守り、支えていくか、ということだ。

このチャレンジングな研究テーマに取り組む私を応援し、支えてくれる7人の仲間。本当にいろんなことを教えてもらっている。やはり、仲間がいてくれるというのは、何にも代えがたい勇気と安心感をもたらしてくれる。

そんな安心感のせいもあって、すっかり朝方近くになってしまい帰宅。その後仮眠をとって、家事をしつつお出かけの準備をして、子どもたちをサマープログラムへ連れて行き、自分自身は、半蔵門で行われた講演会へ。谷口由希子さん(名古屋市立大学准教授)が受賞された、第14回損保ジャパン記念財団賞の受賞記念講演会である。

当日は、本務校のゼミ生、そして非常勤で教えている保育実習ゼミの学生さんも足を運んでいた。ホテルのレストランでカレーを食べているところとか、会場で麦茶を飲んでいるところを目撃、ツッコまれ、今後開かれるであろう飲み会で追及されるのは必至な情勢になってしまった。(カレーは結構おいしかったですよ。)

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さて、講演会とシンポジウム。一言で言うと、大変興味深く勉強させて頂いたということになるのだけど。それだけでは余りにシンプルすぎるので、自分なりに、思うところを書いてみたい。
谷口由希子さんのご著書「児童養護施設の子どもたちの生活過程−子どもたちはなぜ排除状態から脱け出せないのか」では、施設入所から、施設での生活、そして施設退所という其々の過程について、子どもの内面に丁寧に寄り添いながら、その実像に迫っている。特に、「包摂」ではなく「脱出」という鍵概念を用いて、子どもの生活を再建しうる要因を指摘している。

講演を聞きながら、いろいろ考えたのだけれども、正直完全には消化しきれていない部分もある。とはいえ、1つ、掘り下げたいと思うことがある。施設における所謂「自分らしさ」や「子どもらしさ」といったものをどのように保障していくかということだ。施設で暮らす経験そのものは、多くの若者にとって余りないものだろう。そして、施設の閉鎖性がその経験を強化し、入所する子どもの施設への同化を後押しする。
しかし、それは子ども同士の関係が良好に形成されるということを保障する要素とは言えない。むしろ、子ども同士の育ちあいという言葉とは矛盾する事態もまた、施設生活では起きる。むしろ集団で暮らすことにより、問題が複雑化したり、事態が悪化したりすることすらある。
当然、職員は子ども同士の関係性の揺らぎに目を配りつつ、子どもたちのケアにあたることになる。ケアの過程で、関係性の揺らぎのリスクを増やさないということを考えると、思い切った個別的処遇を行うことについては、十分な配慮を必要とすることになる。とはいえ、本来施設での暮らしは、子どもが子どもらしく暮らすことが保障されなければならない場である。職員は、相矛盾するような命題に向き合いながら、子ども自身もまたその矛盾に直面しつつ暮らすことになる。

職員は、子どもたちにとってどんな存在であるべきなのだろうか。福祉制度の中で、子どもたちは、支えられる存在として認識される。言い換えると子どもは、未成熟な存在として認知されるということである。子どものサイン、行動は、未成熟なあるいは特有の行動と映る。それは時として、子どもに課題(入所理由や背景)の原因を認識するよう迫ることになりかねない。確かに援助者たる職員にとっては、子どもが課題を認識し、「問題」行動が緩和されれば、援助としては正しい方向性と言える。
その一方で、子どもに半ば強制的、非対称性が際立つ職員との関係の中で課題を認識させることは、子ども自身の思いは置き去り、否定される可能性が高い。子ども期を子どものペースで、子どものスタイルで過ごすことができない。思いを吐露することもできない、これは、ある意味で子どもが子ども自身の存在を否定しかねない、自己への悲しみや怒りを増すリスクになりかねない。つまり、自分らしさを過剰に抑えたり、否定したりすることになる。さらに、自分らしさの否定は、施設後の生活も壁となって立ちはだかる。

「自分らしさ」を形成するうえで、暮らしや問題に対する向き合い方を、子ども自身で自由に変更できるようにすることはとても大切なことだと考える。そのために職員には、子どもの状況、発達段階に応じた、難易度の提示やほっとかない見守りが求められる。どうすれば問題を解決できるのかということを、子どもが失敗しつつも学ぶことができる環境を子どもと一緒に、作っていくことが求められる。子どもの自分らしさをつくるのは、職員ではない、子ども自身だ。


本当はもっと考えたいこともあるのだけど、それはまたの機会に。