新しくなる少年院法、新しくできる少年鑑別所法 〜広島少年院事件を風化させてはならない、そのスタートになれば〜

日本はもうすぐ梅雨の季節。まだ梅雨でもないのに、猛暑日になったこともあって、盛夏がフライングしていますがみなさんは、いかがお過ごしでしょうか。
最近、ブログの更新がストップしていたのですが、年度初めのゴタゴタも落ちつきまして、ようやくいろいろのんびり考えることができるようになってきました。またすぐ入試シーズンはやってくるのですが、しばらくは、ゆったりした気持ちで過ごしたいと思います。

さて、6月4日は歴史がまた1つ刻まれた日となりそうです。それはおよそ65年ぶりに少年院法が抜本的に改正されることになり(従来の少年院法を廃止し、新しく少年院法作り直した)、併せて新たに少年鑑別所法が誕生しました。遅きに失したとは思いますが、まずは第一歩ということで、評価したいと思います。
少年院法はおよそ65年もの間、抜本改正が行われずに放置され続けてきました。しかし、今回の改正にあたっては、委員会での審議は大変充実したもので、民主党の横路さんや階さんの質疑を聴いていると、非常に丁寧な議論をされていると感じました。横路さんは、衆議院の議長も務めた方で大ベテランですが、ともすれば、光が当たることの少ないテーマにも関わらず、資料に基づいた的確な指摘・提案をされていました。

ポイントとしては、?全国の少年院等に弁護士などの専門家や地域住民等で構成される「視察委員会」が設置されること?収容されている少年が不当な処遇を受けた時などに書面で直接法務大臣に申立てができる制度ができたこと?少年と家族との連絡手段に電話が加わったこと(少年院等の長の要許可)?職員に少年の身体検査や拘束を認める条件を明記したこと?少年院等の対応に問題がある場合、視察委員会の意見、施設の対応の公表が定められたこと、この5つでしょうか。

以下、それぞれのポイントについて、簡単にコメントしたいと思います。
?の視察委員会については、いわゆる外の目を入れるという事で、児童福祉施設等にも見られた動きですが、処遇改善にどこまで資するのか、実効性があるものになるのか、注目されるところです。逆に言えば、処遇改善に向けて、新しいパートナーとして委員会が機能するように職員の意識改革を含めた環境整備が必要になってくると思います。
?については、今回の改正前から既に運用されてきています。2013年は199件の利用がありました。今後も積極的な活用が望まれる制度です。
?については、電話以外にも従前から認められていた面会については月2回以上、手紙ついては4通以上を認めています。通信のやりとりは、少年院出院後も家族関係の形成・維持に資するケースもあるので、今回具体的に保障されたことは評価できる点です。ただ、電話が認められたのは前進なのですが、少年の円滑な社会復帰に役立つという条件付きです。この条件が具体的にどのような要件を満たせばOKなのかということを今後の運用の中で実質化していかなくてはなりません。
?について、今回の改正の契機となった事件を経て明確にされたことです。きっちりと浸透をはかっていかなくてはなりません。何のための改正だったのかと言われないようにするためにも。
?いわゆる不適切事案があった際の対応を定めたものですが、どこまで公表されるのか、どのように視察委員会の意見をいかしていくのか、公表後の様々な動きを見通したうえで、適切な公表の対応がとられることを望みます。

もう5年か、早いなと思います。広島少年院での悪夢。法務教官ともあろう人間が、入所者に暴行、シーツで首を縛り遺書を書くように指示、トイレに行かせずに失禁させるといった行為を行った事件。法務教官は有罪が確定しています。しかし、今回の改正に至るまでに5年。法律をつくり、変えていくのはこんなに長い時間が必要なのかと、思わざるを得ません。
事件当時、ブログの中で「暴力の引き継ぎ」が行われていたのではないか、と指摘しました。この悪しき連鎖を断つことができるでしょうか。法務教官は「感情労働」でもあるとも述べましたが、果たしてそうした職務を行うだけの教官への研修の充実化、2度と不当な暴行事案を起こさない組織のあり方、実践のあり方の見直しなど、多角的に行われなければなりません。

今まで、少年院や少年鑑別所あるいは児童自立支援施設は、非行少年の最後の砦のような立ち位置に置かれたり、自ら固定化させてしまっていました。例えば、少年院は保護観察所に遠慮して控えめに支援を行っていたりしています。しかし、少年院等の入所者の家庭環境をみると、その環境が極めて脆弱な状態の少年がかなりの数にのぼります。少年鑑別所については統計がとられていないけれども、保護者からの虐待を受けたと申し出た少年院入所者が2014年2月末の法務省の調査で、62,2%いるという結果もあったりします。また、法務省の矯正統計年報によれば、家庭等の生活程度が貧困と回答した入所者も相当数います。
出院後頼りになる人がいないというのは、重大な課題です。今回の法律では、出院した少年が少年院等に相談できる制度も導入されます。少年院や少年鑑別所において、専門性を生かしつつ、地域と連携した見守りと励ましができる仕組みが整えられれば、「社会復帰」はより円滑に進むものと考えます。最後の砦としての役割だけでなく、児童福祉の重要なキープレーヤーとして、少年院や少年鑑別所が役割が果たすことが期待されます。これまでは、児童自立支援施設も含めてですが、社会から隔絶された存在でした。しかし、極めて不幸な事件を経て、地域社会の中の少年院、少年鑑別所として、地域のパートナーとしての存在を確立していくことになりました。前述の視察委員会は、その具体化の1つですが、出院後のみならず、非行に至る前に様々なキープレーヤーが、子どもの幸せのために動ける仕組みづくりを今回の法改正をきっかけに進むことを願っています。微力ですが、私もこれまで以上に力を尽くしていきたいと思います。