寄付文化進展への不安 (2012年増補版)

政治の混迷が続いている。民主党は小沢元代表に対し、異例の不定期の党員資格停止処分を決めた。一方で、菅内閣の支持率は20%前後に低迷。松木謙公農林水産大臣政務官が辞意を23日表明し、内閣のメンバーから「反菅」ののろしがあがることになった。

また1年もたたずに、総理が交代するということにどうやらなりそうだ。しかし、日本のメディアの姿勢には、内向き傾向が強く、敵を作って徹底的にやっつけるということを世論やメディアの権力を根拠にやってのけるようだ。
他方で、税制改正など予算関連法案の成否も瀕死の重傷を負っている。公明党社民党が反対の姿勢を決定しており、国民生活への影響が少なからず出ることが、もはや既定路線となりつつある。

その予算関連法案の中に、寄付税制の改正も含まれており、NPO関係者が気をもんでいる。有志議員の間からは、寄付税制を切りだして成立を図るべきだとする意見もあるようだが、現実的には財務省は慎重姿勢のようだ。

私は、今の政治やメディアの状況を見るにつけ、日本において寄付文化の進展が必ずしも社会問題を解決することに十全に機能するとは考えられないので、不安視している。

もう1度政治とメディアの話に戻そう。

ここ何代か、総理が1年ほどで交代することが続いている。支持率は交代した時が一番高く、1年たてば20%というのが、一般的となりつつある。最近の例外では小泉総理ぐらいだろうか。政策課題が山積する日本では、様々な課題に取り組もうとしても、いろいろな壁にぶつかり、果断な判断ができないことが、国民の支持を失う主な要因といえる、しかし、その裏には「果断に判断できない」ことを切り出し、猛攻撃するメディアがいるということも押さえておきたい。

その一方で、年末に登場した「タイガーマスク」を集中的に報道し、タイガーマスク運動への共感を呼び起こす役割もメディアは果たすことになった。

顧みれば、メディアは衆議院選挙のときは政権交代を煽りたて、今度は煽りたてて誕生した政権を叩き潰すような報道・主張を展開している。

昨今の様々なメディア、政治状況、選挙の動向をみるにつけ、誰かを集中して持ち上げたり、たたき落としてみたりと、いわば「一点集中」「寄らば大樹」とも言える国民性が芽生えてきているのではないだろうかとさえ、危惧している。まさにエネルギーを一気に放出するかのごとくの民意のエネルギーは、裏を返せば、日本社会に根付いてしまった閉そく感だといえる。

不安定な雇用、脆弱な社会保障、先進国内での経済的地位の低下など、日本全体がネガティブ思考に陥るような社会問題が未だに光が見えないことそれが閉そく感の主要な成分だろう。その閉そく感が、人々の社会的孤立(排除)の状況を悪化、硬直化させ、「無縁社会」「孤族」といったような言葉を生み出してしまっている。

そうした社会問題の解決にあたろうとする人たちも一方ではいる。最近注目を集めているのは社会起業家NPOの業界に携わる人たちだ。

NPO関係者にとって寄付文化の進展は、長年の悲願だ。規模の小さいNPOも多く、2007年の内閣府の調査では回答に占める22,6%もの団体が年間収入が100万以下である(内閣府 平成19年度市民活動団体基本調査報告書)。さらに平成21年度の市民活動団体基本調査においては、回答したNPO法人全体の収入に占める、寄付・会費はそれぞれ、5,5%と6.8%だ。(一方で認定NPO法人では、寄付金が収入に占める割合は59,1%。今回の税制改正では認定NPOへの移行がより移行しやすくなるような改正も併せて盛り込まれてる。)

私は、今回の「税制改正」や認定NPOに認定要件の緩和には賛成である。しかし、このまま寄付文化がうまく育めるのか、寄付文化の進展が社会問題の解決に一役買うのかと問われれば、かなりの不安を持っているし、感じている。

このままの日本の寄付文化であれば、「問題を問題として認定しない限り、うまく機能しない(寄付が集まらない)」ということになりはしないかという不安である。

タイガーマスク運動の伝播は、社会に児童養護施設の存在を再認識させられた。他方で、同世代が通う、肢体不自由児施設、情緒障害児短期治療施設、児童自立支援施設などへの共感は広がらなかった。社会的に(メディアが)取り上げないと、寄付が集まりにくいということを表した結果ではなかろうか。

子どもの問題でいえば、待機児童の問題や病児保育の問題は社会起業家などの活躍もあり議論についての市民権をゲットしてきたが、障害児保育への注目は集まらず、抱えている問題への議論も僅少だ。同じ年齢であるにも関わらず、子どもの福祉とは別枠で捉えられ、苦しんでいるパパ・ママが少なからずいる。施設卒業後のキャリア形成・進学問題についても、東京では先駆的に取り組んでいるNPOがあるが、その施設の対象に上記の施設はあげられていない。
同じ世代の子どもで、抱えている問題の多くは共通しているものだったりもするのだが…。

本当に必要支援や忘れられた子どもたちへの支援をどうしたらいいのだろうか、問題は何も子どもに限らないが。社会から忘れられている問題、隔離されている問題にどう光を当てて向き合っていくか、これこそが、社会問題解決に必要な土台であり、文化だろう。
社会には様々な問題がある、「一点集中」「寄らば大樹」といったエネルギーの放出だけでは、見過ごし隠されてしまう問題も潜んでいる。寄付税制がそうしたエネルギーの放出の1つになり下がるのではなく、誰でも気持ちよく、自らの信じるところに寄付ができる、これこそが寄付文化の目指すところであり、寄付税制がそうした制度に育っていってほしいと切に願う。